「ハリネズミが慣れてくれない」というお悩みを抱えるハリ飼いさんは多いと思います。ハリんちで時間を共にしたハリちゃんはかれこれ18匹。うち3匹は虹の橋を渡り、うち11匹は生まれるところからお世話をしています。そうした経験から、慣れるとは何か、どうすれば慣れるかについて考えてみます。
目次
ハリネズミはそもそも慣れないのが当たり前
はい。まず知ってほしいこととして、ハリネズミはワンちゃんネコちゃんと違って、ヒトになつくことはほぼなくて、自然な状態であれば慣れることもない動物です。
SNSやTV映像などでハリネズミがなついている、慣れている様子を見たとしても、それはあくまで「切り取り」、運、血のにじむ努力の結晶のどれかなので、鵜呑みにしないほうがいいですね。
もちろん、飼い主さんの試行錯誤や努力で「慣れる」までもっていくことは可能だと思っていますし、ハリんちでも成功例はあります。
ですが、そもそも臆病な動物なので、失敗例といいますか、同じ接し方をしても警戒を解いてくれない子、逆に警戒するようになってしまった子もいます(その時の悲しみたるや……)。
また、ハリんちでは繁殖を通じて赤ちゃんから大人になるまでの間で、ある意味「開花する」ように性格が変わっていく様子も確認しています。
そのほか、慣れてくれたと思っていたのに突然性格が変わって警戒するようになってしまった子もいます。
そういう意味では、ハリんちもまだ研究の途中です。
いずれにせよ、ケースがいろいろなので、まずは「慣れないのが当たり前」とハードルを下げ下げにしてください。
仮に慣れなくても、一緒にいてお世話させてもらうだけで心に栄養を届けてくれる存在なわけですし。
赤ちゃんが「光」と「接触」に臆病かどうかがヒントに
ハリんちで生まれた子はこれまで11匹。赤ちゃんから育っていく過程を観察し、接していることで、ハリちゃんの性格や反応について、重要な気づきがありました。それが「光」と「接触」に対する反応です。
2例紹介します。
「光」「接触」に敏感な音ちゃん
ハリんちで生まれた音ちゃん。生まれてすぐ、授乳時にお母さんがちょっと動いただけでハリを立てたり、緊張してジャンプをしたり。また、電気を付けると怖がってお母さんの下に潜ろうとしたり、陰になるところを探したり。生まれつき「光」と「接触」に対して神経質で、4カ月を過ぎた現在もその性質は変わりません。
「光」に少し神経質なごましおくん
また、双子のごましおくんといちごちゃんの場合、2匹揃って授乳しているときに電気を付けると、ごましおくんのみ少し隠れようとする仕草を見せました。「光」に対して少し神経質な面を持ち合わせているようです。そのせいか、ヒトとスキンシップをしていても、ごましおくんのほうが早く逃れようとします。
赤ちゃんの反応や行動は混じりっけなしのものなので、わかりやすいです。
こうした先天的な性質は、その子の「慣れ」に強く影響してくることが考えられます。
このうち、「光」について実験した結果を別記事にまとめてあります。
実験内容はYouTubeでも公開していますので、一度ご覧ください。
赤い光はハリちゃんにやさしい?検証レポート
生後2~4カ月で臆病な子はその後も…?
はじめにこの2例を紹介した理由は、ペットショップなどで販売されている子は生後2~4カ月が多く、先天的な性質がわかりやすそうだからです。
もちろん、小さいうちにヒトが雑に扱ったり、親子兄弟間でトラブルがあった場合には、後天的に臆病になる可能性もあります。
ただ、ハリんちで小さい子を観察している限り、小さいうちはそういった後天的な事件からの立ち直りが早い印象。やっぱり生まれつきの性質が先かな、と思っています。
逆に、性成熟を迎え、自我がはっきりしてくる5~7カ月ぐらいのほうが注意が必要かもしれない、と日々観察を続けているところです(明言はできません)。
もしお迎えしようとする子がペットショップで臆病な性質を見せてくる場合、それは先天的なものの確率が高くて、その後も慣れてくれないかもしれない。
そのため、ペットショップからお迎えしようとする方は、必ず声をかけたり手を出したりして、反応に臆病さが混じっていないか確認してほしいと思います。
お迎えしたらハリちゃんの自発的行動を引き出すこと
一度お迎えしてしまったら、あとは飼い主とハリちゃんの間の信頼関係次第ですが、問題は信頼関係のつくり方。
ただ…、ハリんちでは「してはいけないこと」は自信を持って言えますが、「こうやればバッチリ慣れてくれます」という方法は思い当たりません。
でも、ひとつだけはっきりと言えることがあります。
「信頼関係ができあがるまでは、ハリちゃんが自発的に行動するように仕向ける」
これです。
ハリちゃんとの信頼関係ができあがる前に、休んでいるハリちゃんを人間の都合で強引に抱き上げたり、むやみにひっくり返したりすると、ハリちゃんの意志が伴わず、結果的に嫌な印象を残してしまいます。
信頼関係ができあがったあとであれば、抱き上げたりしても嫌がらなくなる可能性が減るはずです。
なにより、飼い主が信頼関係を築くために接し方を学習したという点が大きいと思います。
まずは信頼関係を築くため、自発的行動を引き出すよう、接し方を工夫してみてください。
まっさらなハリちゃんはヒトをどう思っているか
自発的行動を引き出すための具体的な接し方について考えていきます。
まず、赤ちゃんと接していて気付いたことですが、周りにヒトがいたぐらいでは、ヒトのにおいや手を覚えてくれません。なので、ある日スッと手を近づけてみると、初見ではビックリして警戒します。
やっぱりハリちゃんはヒトを「異物」で「警戒すべきもの」と思っているようです。
それと、ヒトと接触したことのない赤ちゃんに向かって声をかけてみると、何の反応も見せません。ということは、人の声は警戒対象に入っていないと考えられます。
これがまっさらな状態なのでしょう。
おやつと声とにおいをセットで覚えてもらう
この状態から、おやつ(ミルワーム)を持って、声をかけながら、手を差し出して、自発的に手のほうに来てもらう、ということをやるわけです。
はじめのうち、躊躇するかもしれません。でも、手の上にちょこんと足を乗せてきて、おやつを食べてくれたら成功です。
この行動を数回繰り返すと、ハリちゃんの中に、「おやつ」=「物体としてのヒトの手+手のにおい」=「ヒトの声」という知識というか認識ができてきます。
この認識がハリちゃんの中で熟成されると…。
手を出すだけでこちらにやってきたり、声をかけたら寝ていてもガバッと起きてきたり。
なんてうれしいことでしょうか!
正直なところ、ハリちゃん的には「声」はなくても来てくれると思いますが、人間的にはやっぱり「呼んで来てくれる」というプロセスが自然なので、声もセットで覚えてもらうのがいいと思います。
ちなみに、個人差はありますが、ハリんちには、ミルワームがカサカサする音(保存容器の中でミルワームが動く音)に反応して出てくる子もいます。重要なことはちゃんと、ストーリーというか関係するものと一緒に記憶してることがわかりました。
次のステップとして手に乗る・ひざに乗る・抱っこがある
そうなったら、次のステップに挑戦です。
難易度の低い順に「手に乗ってもらう」「ひざに乗ってもらう」「抱っこする」と挑戦してみてください。声をかけたり、手を出したときにすぐ来てくれるようになってから、というのがポイントです。
手に乗ってもらうための方法
声をかけつつ手からおやつを食べてもらうことに成功していると、両手を開いてくっつけ、ほんの少しだけ揺らして「おいで」と言ったとき、ハリちゃんは人間が「手に乗れ」と言っているということを理解してくれます。
理解はしてくれても、来てくれるかどうかは気分やノリ次第。何度か声をかけたり、両手を開いたまま親指を内向きにパタパタしてここだよというサインを出して、乗ってくれるのを待ちましょう。
最初は乗ってくれないかもしれませんが、あきらめずに時間をかけて(何日かかけて)挑戦してみてください。
これは、ハリちゃん的には土台が不安定なところに立っていると感じ、少し怖いと思っている証拠。
正しい両手抱っこは、手首のつけ根の骨と骨をくっつけて、水をすくうようなポーズにすること。こうするとハリちゃんはリラックスして手のひらの中でペタッとうつ伏せに座ってくれます。

ひざに乗ってもらうための方法
意外に思われるかもしれませんが、ハリちゃんをひざに乗せるのは抱っこするよりも簡単です。その理由は、ここまで読んでいただけた方ならわかるかと思います。そう、ひざに乗るのはハリちゃんから、つまり「自発的行動」だからです。
人間からすると「ひざ乗るなんてハードル高っ!」と思うのですが、よくよく考えてみてください。実はこれ、ケージの端によじ登っておやつをおねだりするのと似た行動。その行動を毎日やってくれるハリちゃんにとっては、ひざの上だろうがどこだろうがあまり関係ないんですね。
準備:部屋んぽに慣れてもらう
ひざに乗ってもらうためには、まず部屋んぽにある程度慣れておいてもらう必要があります。チョロチョロしても大丈夫なエリアをつくって柵などで囲い、おもちゃ、障害物、くぐれるものなどを置きます。そこにハリちゃんを置いて、何日かあまり手を出さず、自由に探検(そしてアンティング)してもらい、場所やものを覚えてもらいます。
人間が床に座って呼ぶ
部屋んぽに慣れた様子が確認できたら、そのエリアの一角に座って、おやつを手にひざを叩いてハリちゃんを呼びます。ひざを叩くポンポンという音+おやつのにおいに反応したハリちゃんが、すね周辺から上に登ってきたらおやつをあげます。
実際にこのようにしてひざに乗ってもらった様子はYouTubeでご覧いただけます。
怖がらせず抱っこする方法
さて、最終段階の「抱っこ」についてです。結論から言うと、「手に乗る」「ひざに乗る」をクリアしている子の場合、高確率で抱っこしてもあまり怒らないです。
抱っこ自体にはコツがあります。「抱っこするよ」ということを事前にわかってもらってから抱っこすることです。声をかけながら、手をハリちゃんに見えるようにゆっくり差し入れて、ゆっくり抱き上げる。いきなりで怖がらせなければ、おとなしく、あるいは「しょうがねえな」的反応を示しつつもおとなしく抱かれてくれるでしょう。
もちろん、すぐ帰りたがる場合が多いですが、そこはハリちゃんの意志を尊重してあげましょう。
大切なことは、抱っこさせてくれるようであればバンザイ、全然ダメでも「もともとそういう子」と理解することだと思います。抱っこできなくても、自発的行動を引き出すように接している限り、ハリちゃんに嫌われ、そっぽを向かれる可能性は低いと思いますので。
常に自発的行動を引き出す努力を
来てくれる=自発的行動なので、この原則を守ってさえいれば、ハリちゃんに悪い印象を持たれずに、飼い主との距離を縮められるでしょう。
たとえば、ハリんちでは、おやつと手のにおいと声に加えて、指でトントンと軽く叩いた場所に来てもらうというのも実現しています。もちろん、そこに来たらおやつがもらえるという経験を何度もしてもらったうえで、です。
繰り返していると、おやつがなくても来てくれるようになります。たとえば、ケージの掃除のときに、掃除をしていない場所にいるハリちゃんを掃除済みの場所に移動してもらうなんてことも!
まあ、無視されることもありますが、常に自発的行動を引き出すように接してはいます。
参考になればうれしいです。