ハリネズミとの信頼関係を築くためには、ミルワームをはじめとした「おやつ」がとても役に立ちます。その一方で、フード以外の食べ物は栄養バランス、特にミネラルバランスを崩すという不安を抱いている方も多いのではないでしょうか。今回はミルワームを中心とした昆虫系のおやつ製品を紹介しつつ、栄養について知っておきたいことを紹介します。
目次
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フード選びの基礎知識は別記事で
大切なハリちゃんのためにどんなフードを選ぶべきか、基礎的な情報を別記事にまとめています。よろしければご覧ください。
ハリネズミのフード選び3つのポイントなぜにミルワームなのか
そもそもハリネズミにミルワームをあげるという発想はどこから出てきたのでしょうか。いちばん大きなポイントはやはりコストと育成のしやすさで、安価で温度変化にも強いことから、魚の釣り餌や熱帯魚のエサとしてすでに広く使われていました。現在ハリネズミ用の飼育用品を販売しているペット用品のメーカーさんは、熱帯魚や観賞魚から事業を始めた会社も多いのですが、その流れから察するに、昆虫を食べるハムスターやは虫類など、取り扱うペットの種類が増えていくときにミルワームを流用していったのではないでしょうか。ハリネズミはペットとしての歴史は浅いですので、昆虫を食べる動物だということで同じくミルワームが流用されるようになった、と推測します。
余談ですが、ミルワームには面白い情報もいくつかあります。発泡スチロールを食べ、消化できるというエコロジーな面を持っていたり、スーパーフードとして人間が食する流れもあったり。最近ではミルワームやシルクワーム、コオロギあたりは普通に食べられるということで、人間用の商品も販売されていたりします。
ハリネズミ用の昆虫のおやつ
まず押さえておきたいのが、芋虫的な見た目の幼虫のうち、ハリネズミ用のおやつとして名前が出るのは「ミルワーム」を含めて3種類ほどあるということ。大きさに違いがありますが、見た目はどれもだいぶ似ています。ここでは、それぞれどういう特長があるのか押さえておきましょう。
ミルワーム
ミルワームというのはゴミムシダマシ科甲虫の幼虫です。小さいサイズがチャイロコメノゴミムシダマシの幼虫で「ミルワーム」、大きいサイズがツヤケシオオゴミムシダマシの幼虫で「ジャイアントミルワーム」「グレートミルワーム」「ビッグミルワーム」などと呼ばれます。
ジャイアントのほうは、サイズが普通のミルワームの倍ぐらいありますかね。大きいのでグロテスクなディテールのインパクトが大きいです。
ミルワームとジャイアントミルワームは同じ仲間なので、栄養成分も似ています。どちらも成分の半分以上がたんぱく質です。
余談ですが、成虫のチャイロコメノゴミムシダマシが乾燥状態でミルワームに混入していたのでその姿を撮影しておきました。これはミルワームより全然小さかったです。
シルクワーム
ご想像の通り、カイコの幼虫です。サナギの状態でハリちゃんのおやつになりますが、人間が食べてもけっこうおいしいらしく、養蚕(ようさん)業界隈では普通に食べるのだとか。
栄養価についてはものによってだいぶばらつきがあるようですが、ミルワームと似たり寄ったり、微妙な差だと思います。
カルシワーム
カルシワームというのは日本ではジェックスが販売するアメリカミズアブ幼虫の商品名です。世界的には「フェニックスワーム」(Phoenix Worm)と呼ばれています。ハエの仲間で、日本でも都市部の下水など、水回りで害虫として出現するようです。
人間にとって害虫ではあるものの、実はこのアメリカミズアブの幼虫、添加物など加えず自然な状態でカルシウム分が多く、ミネラルバランスがダントツに優れています。ただし、ミルワームよりもたんぱく質が少なくて脂質が多く、カロリーが高いので、太りやすいですね。
見た目はミルワームよりも体長が短くてポテッとしています。
詳しくはこの先の製品紹介セクションで解説します。
コオロギ
ハリネズミのおやつとしては、もうひとつ「コオロギ」があります。こちらは成虫を生き餌またはドライで与えます。
栄養価としては、超高タンパクで低脂肪、カロリーも低め。ミルワームやシルクワームよりも優れた成分分布です。
昆虫のおやつの栄養価
では、栄養価を数字で見てみましょう。
名前 | たんぱく質 | 脂質 | 粗繊維 | 灰分 | 水分 | エネルギー | カルシウム | リン | カルシウム/リン比 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
ミルワーム(乾燥) | 50.1% | 27.4% | 5.7% | 3.9% | 4.3% | 504kcal | 0.08% | 0.83% | 0.10 |
ジャイアントミルワーム(乾燥) | 50.0% | 26.0% | 2.0% | 5.0% | 7.0% | 463kcal | - | - | 0.07 |
シルクワーム(サナギ・乾燥) | 50.0% | 25.0% | 3.0% | 4.0% | 10.0% | 488kcal | - | - | 0.08 |
カルシワーム(乾燥) | 33.1% | 44.0% | 5.6% | 8.3% | 2.4% | 554kcal | 2.11% | 0.80% | 2.64 |
コオロギ(乾燥、イエコオロギ) | 67.1% | 16.8% | 5.9% | 5.1% | -% | 443kcal | - | - | 0.14 |
※エネルギーは100gあたり
※表の情報は「ハーティー 乾燥ミルワーム(ナチュラルペットフーズ)」「バグズスタイル ジャイアントミルワーム(三晃商会)」「乾燥シルクワーム(マルカン)」「ヘルシーレシピ カルシワーム 35g(ジェックス)」の成分表示のほか、下記サイトの情報を参照
※商品の成分表示でカルシウムとリンの含有量(率)が見つからなかったジャイアントミルワーム、シルクワーム、コオロギについては、カルシウム/リン比のみ下記サイトの情報から掲載。なお、シルクワームのカルシウム/リン比は情報によってかなりばらつきがあり迷いましたが、ミルワームと同等の数値を採用
https://www.shopping-charm.jp/product/2c2c2c2c-2c2c-2c2c-2c2c-383937343731
https://www.shopping-charm.jp/product/2c2c2c2c-2c2c-2c2c-2c2c-2c3236353231
https://www.shopping-charm.jp/product/2c2c2c2c-2c2c-2c2c-2c2c-323233323839
https://repiew.jp/articles/nutritions
http://www.sanko-wild.com/animal/c_f122.htm
https://paypaymall.yahoo.co.jp/store/wannyan-ya/item/25565673/
https://tsukiyonofarm.jp/c/group-category/dried-cricket/k423
ハリネズミに理想とされるカルシウム/リン比は1.2~1.5で、ハリネズミ用メインフードはこの比率を目指してミネラルを配合しているものが多いです。
しかし昆虫のおやつの場合、見ての通りカルシワームを除いて著しく数値が低い、つまりカルシウムが少なくリンが多い、ということになります。
カルシウム/リン比は大切なのか?
カルシウムとリンの比率にスポットが当たる理由は、リンの過剰摂取によってカルシウムの吸収が阻害され、骨の生育に支障を来し、くる病などの発症原因になる可能性があるためです。
ただし、これは特には虫類と両生類に発生する症状で、ほ乳類のハリネズミにそのまま当てはまるわけではありません。
獣医さんにうかがったところ、これまでたくさんのハリネズミちゃんたちを診察してきた中で、カルシウム不足に起因する症例はほとんどなかったとのこと。つまり、ハリネズミにおいてはカルシウム/リン比について神経質になる必要はなさそう、という見解でした。
また、そもそも若いうちは血中のリンが過剰になっても、便や尿として排泄されるため、あまり気にする必要はないかもしれません。
念のため数字を見てみます
結論としてあまり気にする必要はないというところですが、念のため数字を出しておきましょう。
三晃商会の「ハリネズミフード」に配合されているカルシウム:リンは、1日30g与えるとして0.45g:0.3gです。
一方、ドライ(の小さい)ミルワームは、公表しているメーカー2社の数字がかなり違っていたので間を取った数字で計算すると、10匹(0.5g)あたりカルシウム:リンは0.015g:0.16gとなります。
つまり、ハリネズミフード30gとミルワーム10匹でカルシウム:リン比はおよそ1:1になるぐらいです。
さらに進んでミルワームを合計20匹与えたとすると、カルシウム:リンは0.03g:0.32g、ハリネズミフードの0.45g:0.3gと合わせると0.48g:0.62g=0.78:1です。
アンバランスさが気になる場合は
飼い主として、カルシウム/リン比のアンバランスさが気になってしまうという場合は、3つの対応方法があります。
1 おやつを減らす
獣医さんの中には、そもそもおやつを極力減らすことを推奨する方もいます。ミネラル分のアンバランスさだけでなく、太りやすくなるというのもその理由です。これは正論ですが、おやつをやめることで「ハリネズミがワクワクする時間」「飼い主が仲良くなるチャンス」が減ってしまいます。
というわけでハリんちとしては、この方法はオススメしません。ミネラル分のアンバランスさが気になる方で、おやつをやめずに解決したい方には、次の2つの対処法をオススメします。
2 ダスティング
「ダスティング」とは、カルシウム剤をはじめとしたビタミン・ミネラルの粉末を昆虫に混ぜ、偏ったバランスを整えることです。
たとえばジェックスがは虫類用に販売している「カルシウム 40g PT1850」などはハリネズミ用にも使えます。
参考 カルシウム 40g PT1850ジェックス株式会社
目安としては、ミルワーム100gに対してこれを1g混ぜると、ちょうどカルシウム/リン比が1.2~1.3ぐらいになります。
例えば「ハーティー 乾燥ミルワーム」(ナチュラルペットフーズ)は70g入りなので、0.7gほど添加すればいいということになります。
1gの計量スプーンでだいたい7割ほどすくい、
ミルワームの袋に入れてよく振って混ぜればダスティング完了です。
ちなみに、カルシウムは蓄積されるミネラルのため、過剰に与えるのはNGです。リン、ビタミンDとのバランスを考慮して、最低限の添加に留めるようにしましょう。
3 カルシウムが強化配合されたものを使う
続いては、あらかじめダスティングが施された商品を使う方法です。たとえば、リン酸カルシウムが添加されたミルワーム。これはカルシウムとリンが1:1~3:2の割合で結合したもので、ミルワーム自体に含まれるカルシウム不足を補うために添加されたものです。
おやつを与えたらチェックしたいこと
これは昆虫に限らず、果物や野菜、あるいはハリネズミ用と表示のあるフードや補助食品を含め、すべての口に入るものを与えたあとに共通することですが、与えたあとに変化がないかどうか、注意深く観察するようにしてください。
食後、吐いたり、かゆがったり、落ち着きなくしていたりと、いつもとは違う動きをしていないかどうか。
また、翌日までのうんちの状態に変化はないか(水っぽいうんちが出ていないか、緑色のうんちになっていないか、消化できずにおやつがそのまま便として出てきていないか)もしっかりチェックして、問題があればそのおやつはやめます。
食べ物の合う合わないは個体差もあるので、飼い主の確認はとても大事です。
ヘルシーレシピ カルシワーム(ジェックス)
原産国:インドネシア(最終検査・梱包は日本)
参考 ヘルシーレシピ カルシワーム35gジェックス株式会社
パーム種子などを与えて育てられたアメリカミズアブの幼虫です。ミルワームに比べてカルシウムが約50倍と多いのが特長です(成分は先ほどの表参照)。
一方で、ミルワームに比べてたんぱく質が低く、脂質が約1.6倍と多いため、与えすぎると太ってしまう可能性が高いです。
食いつきチェック
早速、初見のハリちゃんたちに与えてみました。ハリんちには今ミルワームを食べない子はいないのですが、カルシワームを差し出したところ、なんと16匹中16匹、全員が食べました。みんなミルワームと同じぐらいのがっつきを見せてくれていて、おかわりをねだる子もいました。
入手先と価格
ハリんちSHOPオンライン、および大阪中崎町「ハリネズミバー ハリんち」併設のハリんちSHOP実店舗の両方で販売しています。
1gあたりの価格
約29.7円
CASA ワイルドメニュー 乾燥ミルワーム(マルカン)
原産国:中国(マルカンの協力工場で製造)
参考 ワイルドメニュー 乾燥ミルワーム株式会社マルカン
こちらはちょっと一手間かけたミルワーム。ミルワームにリン酸カルシウム、ビタミンA、ビタミンD3、穀物発酵エキスを加えた、つまりダスティング済みの製品です。
素のミルワームと何か違うかなと期待して袋から出してみましたが、特に変わったところがありません。ダスティング感(粉っぽさ)もありませんでした。
成分表では、粗タンパク質、粗脂肪、エネルギーが他社ミルワーム製品より高めに出ていて、かなり高栄養という印象を受けました。
食いつきチェック
食いつきは素のミルワームとまったく変わらないです。ハリんちにいる子はみんなミルワームが大好きで、このダスティング済ミルワームにも変わらずがっつき!においに反応して目を丸くしたと思ったらトトトトと駆け足でこちらにやってきました。
ちなみに、素のミルワームにこちらでカルシウムをダスティングしたものも、同じくバツグンの食いつきでした。
入手先と価格
大阪中崎町「ハリネズミバー ハリんち」併設のハリんちSHOP実店舗で販売しています。
1gあたりの価格
約10.6円
バグズスタイル グルメミックス(三晃商会)
原産国:ベトナム(配合は日本)
参考 バグズスタイル グルメミックス三晃商会WEBページ
ミルワームとコオロギ(おそらくフタホシ)、シルクワームのサナギをワンパッケージにしたおやつです。すごく香ばしいにおいがして、濃い鰹節、魚の干物(例:北海道の干物の氷下魚[こまい])のようなにおいがします。これは主にコオロギから発生していると思われます。
コオロギはミルワームよりもだいぶディテールがしっかり見えるので、虫が苦手な人にはキツイかもしれません。
シルクワームのほうは…ミイラですね。何なのかよくわからない感じがあります。
3種類の混合比率は、試用したものはミルワーム:コオロギ:シルクワーム=5:4:1といった印象で、シルクワームは少なかったです。一袋に20匹は入っていないかなという感じでした。
成分としては、コオロギがけっこう入っているおかげで、粗タンパク質が56.8%とすごい数字です。
食いつきチェック
含まれる3種類のうち、ミルワームについては割愛します。ここではコオロギとシルクワームをひとつずつあげてみて、食いつきを観察してみました。
結果としては、好き嫌いが分かれました。
コオロギは16匹中12匹がしっかり食べ、2匹がちょっと食べて残し、2匹はまったく食べませんでした。
シルクワームは16匹中6匹がしっかり食べ、4匹がちょっと食べて残し、6匹はまったく食べませんでした。
思ったよりも食いつきにばらつきがあって、逆にミルワームの汎用性の高さを感じました。もちろん、ミルワームを食べない子もいますが、想像するにミルワームを食べない子は、よりクセが強そうなコオロギやシルクワームはなおさら食べないような気がします。
ちなみに、コオロギは大きいので、ハリちゃんは一口では食べられません。床にボロボロとこぼれるので、汚れても大丈夫な場所であげましょう。
入手先と価格
ハリんちSHOPオンライン、および大阪中崎町「ハリネズミバー ハリんち」併設のハリんちSHOP実店舗の両方で販売しています。
1gあたりの価格
約14.9円
ハリネズミのおやつ クッキータイム ミルワーム入り(ハイペット)
内容量:20g
原産国:日本
参考 ハリネズミのおやつ クッキータイム ミルワーム入りハイペット株式会社
箱の中にチャック付きのアルミ袋が入っていて、ちょっとずつあげられるようになっています。においはクッキーそのものです。おいしそうなにおいがします。
それもそのはず、原材料上位が小麦粉、鶏卵、上白糖と、ふつうのクッキーですね。ミルワームを練り込んだクッキー。
意外だったのは上白糖つまり砂糖を使っていること。ハリネズミに与えてはいけないものとして「砂糖」を挙げている情報源が複数あったため、「あげてもいいんだ」と驚きました。
添加物としてアミノ酸と乳酸菌を配合していて、針(spine)や胃腸の調子を整えるとあります。
とはいえ、植物性原料(小麦粉)がメインで、粗タンパク質は14.0%と低く、全体として栄養豊富とは言えないので、あまりたくさんあげるようなものではないかな、と思いました。
メーカーが「手からも食べて、楽しいふれあい!」と提案するように、コミュニケーションツールというポジションでしょう。
食いつきチェック
クッキータイムを手に持って呼んでみたところ、どの子もなかなかこちらにやってきませんでした。ミルワームなどほかのおやつではもっとレスポンスがいいので、おそらくハリちゃんが好きなにおいがあまりしないのでしょう。人間がハリちゃんの食べ物を手に持っているかどうか気付いていない様子でした。
仕方ないのでこちらから手を近づけてクッキーに気付いてもらいます。鼻から2cmぐらいの距離でやっと気付いた感じで、16匹中13匹がしっかり食べ、1匹は1粒だけ食べたあと2粒目は食べず、2匹はまったく食べない、という結果でした。
食べた子たちは、食べてみたらおいしかったという様子ではありますが、あげるときにこっちに来てくれないのでは、ハリんちとしては人慣れトレーニングの効果はかなり下がりますね。
入手先と価格
ハリんちSHOPオンライン、および大阪中崎町「ハリネズミバー ハリんち」併設のハリんちSHOP実店舗の両方で販売しています。
1gあたりの価格
約34.9円
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ハリんちではメインフード(主食)からゼリーやミルワームなどのおやつまで、いろいろと試しています。よろしければ以下の記事もご覧ください。