ハリんちでは、炎症性腸疾患の診断を受けて投薬を続けていた子が、あまり回復せず虹の橋を渡るということが、立て続けに2名に起こりました。ここでは3歳3カ月で先に逝去したさくらちゃんについて、検査や投薬の記録をまとめました。
目次
炎症性腸疾患とは
炎症性腸疾患(Inflamatory Bowel Disease、略称IBD)は、原因不明の腸の炎症です。
検査をしても原因が特定できない慢性的な下痢や嘔吐が症状で、ステロイド剤(プレドニゾロンやシクロスポリン)でその症状を抑えられるものに対して、消去法的に診断されています。ステロイドが効く=免疫抑制に効果があるということから、最近では免疫抑制薬反応性腸症(IRE)とも呼ばれています。
原因不明ではありつつも、腸粘膜の透過性が亢進した状態で消化管内微生物や食物成分がアレルゲンとなって発症するという推測がされています。つまり、食物アレルギーが原因ではないかということです。そこで、ステロイドの投薬に加えて抗菌薬、低アレルギー食による食事療法が実施されているそうです。
参考文献:『ペット栄養管理学テキストブック』(アドスリー、2014)
獣医師向け専門書にはどう書いてあるか
三輪恭嗣先生が獣医師さん向けに上梓した『エキゾチック診療 Vol.17 ハリネズミとフクロモモンガの診療』(学窓社、2017)を参照したところ、このような記述がありました。
下痢や軟便などの原因として、不適切な食餌や食物アレルギーの関与、炎症性腸疾患などが考えられステロイド剤の投与により改善がみられる例も経験しているが、慢性的な下痢や軟便の原因を特定できないこともある。また、筆者らは慢性の下痢や血便がみられたハリネズミで病理組織学的に消化管のリンパ腫と診断した例を複数例経験している。文献的にもハリネズミではリンパ腫の発生率が高く、全腫瘍の中でも2番目に多いと報告されている。また、ヨツユビハリネズミのリンパ腫で詳細が記載されていた報告の約半数が消化管リンパ腫であった。~(中略)〜ハリネズミのリンパ腫の発生要因は明らかにはされていない。
具体的な症例と治療過程についてはそれほど触れていませんが、やはり「食物アレルギー」という単語が出てきています。この点については記事の最後に続きを書きました。
さくらちゃんの通院記録
さくらちゃんは今回の治療で合計11回通院しました。まずはおおまかな時系列と内容を一覧にまとめたので、見てみてください。
体重の推移
検査と投薬を繰り返しましたが、原因がわからないまま旅立たせてしまいました。
最初の異変
さくらちゃんは三太郎くんと蕾ちゃんの2回目の出産で生まれた子で、花くんの妹です。誕生日は2019年3月31日でした。
※撮影:2019年4月17日(生後18日目)
※撮影:2021年3月4日
さくらちゃんは3回出産を経験していますが、2回目は死産だったため、3回目の交配を行う前に、一度健康診断をしておくことにしました。それが2021年4月19日です。
鎮静麻酔をかけてエコーと血液検査をしましたが、まったく問題はありませんでした。
ということで4月25日に元気くんと交配し、5月30日(妊娠35日目)に3名の女子が生まれました。
※撮影:2021年7月29日
7月29日には子離れをしてまた独り暮らしになりました。
独り暮らしで秋〜冬を迎えて年末年始に近づく頃、少し偏食が始まりました。ハリんちのレギュラーフード(Fay、ひかりハリネズ、三晃ハリネズミフードの3種混合)をあまり好まなくなり、時折与えていて、当時から食いつきの良かったハーリーの主食だけを食べるようになりました。しかしそのハーリーの主食も一気には食べず、半分ほど食べてまた後で食べるといった食べ方に変わっていました。
偏食開始と大きめの歯ぎしり
そうした食の変化が気になりながら迎えた2022年。さくらちゃんは元々歯ぎしりをする子だったのですが、このところそれが結構なボリュームでギィギィと鳴ります。「もしかしたら歯周病で偏食か?」と推測し、1月3日に診察してもらうことにしました(ここから受診1回目とカウントします)。
年始は動物病院も混み合います。そのためこの日は触診と目視、鎮静なしのエコー検査と簡便な方法で診察をしてもらいました。
獣医さん
変化はありつつも食べて栄養を摂れている様子なので、抗菌薬のバイトリルと消化管運動亢進のプリンペランシロップで様子を見ることになりました。
獣医さん
投薬の効果は今ひとつだったが
1月12日、別の子の診察のため通院した際に、現在の様子を話しました。
ハリんち
獣医さん
少しずつ調子が悪くなっていく
食べ方が変わってからの約3カ月間は、運動量がやや減った印象を持ちながらも、食べてはいるという様子見の日々でした。
※撮影:2022年3月31日
緑色のうんちをしたので病院へ
しかし3歳の誕生日を迎えて約1カ月後の4月28日、緑色のうんちをしていました。特に体調が悪そうな様子ではありませんでしたが、様子見から状況が変わったため、すぐ病院へ。通院2回目です。
持参した便の検査と鎮静なしのエコー検査を行いましたが、異常は確認できませんでした。
獣医さん
とのことで、消化管運動亢進のプリンペランシロップとプロバイオティクスのサプリメント、マイトマックス・スーパーが処方されました。
参考 マイトマックス・スーパー共立製薬株式会社
食欲が少し落ちてきた
薬の服用中はうんちの硬さも色も良くて食欲もあり、砂浴びもいつも通り。でもホイールで遊ばない日もあったりして、やはり本調子というわけではなさそうでした。
5月16日、食欲が少し落ちて食べ残しが見られるようになって、前回の薬もなくなりかけてきたので3回目の受診です。何かモヤモヤを抱えたまま、さくらちゃんの調子が少しずつ悪くなっているように感じて、今回から先生を変えることにしました。院長先生を希望したのですが3時間以上待つと告げられたため、ハリネズミの診察ができるという新しい先生にしました。
前回はエコーで異常が見当たらなかったため、今日はレントゲンで診ていただきました。
獣医さん
とのことで、抗菌薬のタイロシンが処方されました。
参考 タイロシン共立製薬株式会社
状況はあまり変わらず2週間後再診
通院後はうんちも食欲もムラがあり、良くなったかなと思ったらまた悪くなるという様子。薬がなくなるタイミングで、5月30日に4回目の受診をしました。
獣医さん
とのことで、消化管運動亢進のプリンペランシロップと抗菌薬のフラジールが処方されました。
やはり状況が変わらず1週間後再診
6月6日、薬がなくなり5回目の受診です。症状にあまり変化がないため、ステロイドの処方を行うことに。
獣医さん
処方薬はステロイドのプレドニゾロン、消化管運動亢進のプリンペランシロップと抗菌薬のフラジールです。
ステロイドが効いた
前回から11日後の6月17日に6回目の受診。その間はステロイドが効いた様子で、お腹の調子もかなり安定し、ホイールも毎日使うようになりました。食欲はしばらくムラがありましたが、直近5日は出したぶんを完食してくれ、頼もしい気持ちに。
病院では薬を中心静脈注射して、処方はステロイドのプレドニゾロン、消化管運動亢進のプリンペランシロップです。
獣医さん
症状の悪化は止まらず……
6月23日夜から24日朝にかけてかなり食欲が落ち、食べ残しが多くなりました。うんちは茶色から少し緑色がかった茶色の軟便が続いていて、ホイールも使っていません。というわけで、まだ薬は残っていましたが、24日に7回目の受診をしました。
獣医さん
処方薬はステロイドのプレドニゾロン、消化管運動亢進のプリンペランシロップと抗菌薬のフラジールです。
ステロイドが効かなくなった
24日の通院後も症状は全然改善されないため、3日後の6月27日、8回目の受診をしました。鎮静麻酔をかけて検査、というお話でしたが、
獣医さん
処方薬はステロイドのプレドニゾロン、消化管運動亢進のプリンペランシロップと抗菌薬のフラジール、バイトリルです。
鎮静麻酔下でレントゲンとエコーと血液検査
前回の通院後、若干調子を戻したかと思ったところで6月30日夜からまた食欲がなくなり、翌7月1日朝には粘性の血便も出ていました。細かく通院していますが、総じてどんどん調子が悪くなっています。
9回目の通院では、鎮静麻酔をかけてレントゲンとエコー、血液検査を実施しました。
こちらがレントゲンの画像です。
5月16日のレントゲンと比較して、かなり痩せてしまっていることがわかります。
獣医さん
ハリんち
獣医さん
処方薬はステロイドのプレドニゾロン、消化管運動亢進のプリンペランシロップと抗菌薬のフラジール、バイトリル、止瀉剤(ししゃざい、下痢止め)のディアバスターです。
調子が良くないため、翌日も点滴に通院してくださいと伝えられました。
点滴に通うが衰弱が進んでしまう
7月2日、点滴のため10回目の通院をしました。この日の夜から血便が収まりましたが、うんち自体は軟便です。ごはんは2口ほどしか食べてくれません。お水だけはなんとか飲んでくれていました。
7月4日、再び点滴のため、11回目の通院です。衰弱は止まりません。
後ろ脚を引きずるようになり逝去
食欲は一向に戻りません。水をかなり多めにしてつぶしたハーリーの主食グロースと、ジクラの小動物万能ゼリーを小皿に入れてあげると、どちらも少し舐めてくれました。それでも十分な量食べていないため、身体がずいぶん小さくなってしまいました。
7月5日、夕方頃からかなり元気がなくなり、動きもゆっくりになってきました。夜覗いてみると起きてきてくれましたが、足もとが弱々しく、ひきずるようになっていました。
7月7日の真夜中、呼吸をしていることを確認しましたが、数時間後また見に行ったときには、旅立っていました。
食事に工夫をしてみるべきだった
今回のさくらちゃんの闘病では、何度検査をしても原因が特定できず、途中から炎症性腸疾患と消去法で診断しプレドニゾロンの投薬は続けていました。ただ、炎症性腸疾患の原因と推察される食物アレルギーに関して、指導はありませんでした。
残念ながらこのことはつい最近学んだことで、当時はただただずっと食べてきたもの、食べそうなものをあげていました。与えていたフードが合わなくなっていたということであれば、結果はどうあれ、対応としてはかなり変わったと思います。
食物アレルギー対策の方法や具体的なフードについて、調べは済んでいますので、近々に試してみて、改めて紹介したいと思います。
病気関連の記事
ハリんちで経験したハリネズミの病気についての記事です。併せて参考になれば幸いです。
姫ちゃん2歳8カ月の子宮卵巣摘出手術 小さく産まれた子の先天性心臓疾患 おちんちんが腫れた元気くん、動物病院へ 朝起きるとふらついてる…大吉くん通院記 コロちゃんの難産:3日間に渡った出産、死産、母体の危険 蕾ちゃんの闘病記:良性腫瘍の切除~腎臓病由来の重度の貧血、突然のお別れ 健太郎くん闘病記:後ろ脚麻痺・最期の六日間 ハリネズミの皮膚トラブル:夏場の肌の乾燥 ハリネズミ蕾ちゃんの皮膚トラブル!かゆくて傷に | 子育て&成長日記32 健太郎くんの軟便―ハリネズミの子育て&成長日記28(シーズン2) 三太郎の“消えたシッポ”-ハリネズミの子育て&成長日記19(シーズン1.5)-ハリネズミの病気と「保険」|2社の保険商品に入っていたらどうなった? ハリネズミの「病気」と保険|ハリんちの通院実績と内容ご紹介
ハリネズミを診てくれる動物病院リスト:大阪市近郊編