運動不足のいちごちゃんが捻挫を期に運動するようになった話

運動不足のハリネズミがねんざを期に運動するようになった話

ちょっと目を離したすきにテーブルから落ちて、左前足を捻挫してしまったいちごちゃん(当時2歳10カ月)。怪我の回復に伴って、驚きの変化が起こりました。運動不足が慢性化していたところ、毎日運動するようになったのです。

気になっていた運動不足と体重増加

ハリんち店舗には、姫ちゃん、咲ちゃん、いちごちゃんという3女傑が広々スペース(140×105cm)で一緒に暮らしているエリアがあります。ごはん待ちの時間には、あちこち行ったり来たり、忙しく動き回っていて、この環境にそこそこ満足してくれているように見えます。
ハリネズミ3名が一緒に暮らすスペース

ただ、悩みがありました。3名とも、ホイールで遊ぶことが減ったのです。この広々スペースは2年前から、数回の改良を経て用意したものですが、最初の頃はホイールでも遊んでいました。それが、1年ほど前からパッタリとホイールで遊ばなくなり、申し合わせたように体重が100〜150gほど増えました。
ハリネズミ3女傑
左から、姫ちゃん(当時4歳1カ月)、いちごちゃん(2歳8カ月)、咲ちゃん(2歳半)

いちごちゃんについては、2021年12月13日は440gだったのが、約1年後の2022年12月8日には517gと77g増。快適すぎる環境に、本能的な運動衝動が起こらなくなっているのかもしれないと思いつつも、どうしたものかと頭を悩ませていました。
2021年12月13日の体重(ハリネズミのいちごちゃん)
2022年12月8日の体重(ハリネズミのいちごちゃん)

いちごちゃんがテーブルから落ちた

2022年12月15日の朝、フードをふやかしながらキッチンで給水器を洗っていたら、ハリたちのいるほうから「キャア!」という悲鳴が聞こえました。すぐに見に行ってみると、いちごちゃんがテーブルから落ちて床に腹ばいになったままじっとしています。

テーブルは高さ70cmほどで、普段はフェンスと扉を閉めてあるので落ちたりはしません。ただこの時は掃除中で扉は開けてあり、その先の離れた場所でフードをふやかしていたので、その匂いに釣られていちごちゃんが前に進み、落ちてしまったようです。
テーブルとフード、落ちたいちごちゃんの位置関係

防御策を講じておくことが大前提での話ですが、小動物は往々にして人間の予想を超えていろんな場所に出入りし、チョロチョロしてしまうもの。気をつけていても、たまに高所から落ちてしまうことがあります。ただ、多くの場合は落ちても大事には至らず、本人はすぐに気を取り直して歩き出します。

でも、このときはそうではなく、腹ばいになってじっとしているのです。ちょっと嫌な予感がしました。「いちご大丈夫?」と声をかけながら抱き上げてハウスの前に戻しますが、ゆっくりと這うように動き出します。こちらもちょっとドキドキしてきました。

様子を見守っていると、今度はその場でキュッと丸まったかと思ったら、強く丸まってフシュフシュ、少し弱めてまた強く丸まってフシュフシュ。痛くて泣いているようです。

その様子に気付いた咲ちゃんが側に寄ってきて、その場で見守ります。

いちごちゃん思いの咲ちゃん
咲ちゃんといちごちゃんは幼い頃からずっと一緒で、いつもいちごちゃんのことを気に掛けているように見えます。過去にも、いちごちゃんが神経質になっているときに側にやってきてスンスンしながら見守る様子を2度目撃しているので、仲間意識があるのだろうと思います。
5カ月頃のいちごちゃん(右)と3カ月頃の咲ちゃん(左)
↑5カ月頃のいちごちゃん(右)と3カ月頃の咲ちゃん(左)
↓2歳半頃のいちごちゃん(左)と2歳4カ月頃の咲ちゃん(右)

2歳半頃のいちごちゃん(左)と2歳4カ月頃の咲ちゃん(右)

動物病院へ

そんないちごちゃんの様子に「骨が折れてるのかもしれない」と思い、急いで掃除を済ませて動物病院に向かいました。移動中もずっと丸まったまま。折れていたら相当痛いだろうと想像し、焦りました。

動物病院に着いて、待合室で待っている間も丸まったままでしたが、診察室に入ってキャリーを開けたらスッと丸まりを解除。正直「えっ?」とビックリしました。いろんな動物の匂いがする場所なので、興味のほうが勝ったのかもしれません。

ともあれ、丸まりを解除してトボトボとびっこを引くように歩き始めたので、獣医さんと一緒にその様子を観察。すると、左前足だけ足首ごと内側に曲げた状態で歩いています。猫パンチをさらに内側に巻いたような状態でした。

鎮静をかけてレントゲンを撮り、状態を確認してもらいました。すると、骨は折れていません。捻挫でした。

ホッとするのと同時に、あの丸まって泣いていたのはいったいなんだったのか、泣き虫な子どもみたいだなとちょっと笑けてきました。同時に、いちごちゃんに対する愛情レベルが一段階アップしました。

いや、捻挫で済んで良かったです。先生も、ハリネズミは70センチ程度の高さから落ちても大事に至ることは少ないという認識。では、原因は何だろうというところで、運動不足と体重増が関係しているかもしれないという話になりました。

処方薬は非ステロイド性消炎鎮痛剤のメタカムとインフラカム、食欲増進用のメトクロプラミド(プリンペラン)です。
この日の診療明細書です。
診療明細書(ハリネズミのいちごちゃん)

病院から帰っても神経質な状態

いや良かった良かったと、安堵しつつ帰宅したのですが、本人はそうでもありません。思いがけなく痛い思いをして、病院にも連れて行かれてと、インパクトの大きい数時間を過ごしたので、それから4日間は神経質な状態でした。

いつもならごはんの匂い、いや飼育員の気配がするだけで、ライバル2人に負けられないとばかりに率先して前に出てくるところ、なかなか出てこなくなりました。何度も呼びかけてやっと、フシュ声を出しながら出てくるという状態です。それでも、そのうちいつも通りに戻るだろうということで、あまり気にせず接していました。

というのも、神経質になったことのはこれまでも数回あって、数日放っておけば落ち着くことがわかっていたからです。

飼育員(男のほう)に触られるとかゆがる
実はいちごちゃんは、飼育員(男のほう)に素手で抱っこされて、特に首の下あたりを触られると、アレルギー反応が出るかのようにかゆがり、首の下を歯で掻きむしります。かゆみがある15~30分はかなり神経質になり、超高速ですみかの中を駆け回りながら掻きむしり続けます。そっとしておくと落ち着きますが、神経質な様子だけは2〜4日続きます。
掻きむしった首の下のかさぶた(ハリネズミのいちごちゃん)

最初これが起こったときは何が原因かわかりませんでしたが、何度か繰り返すうちに、素手で首の下を触るとダメだということがわかりました。神経質になったことが数回あると言ったのは、かゆがる原因を特定するまでの何回か、ということです。

そして毎回、咲ちゃんは寄り添いにやってきました。高速でハウスに逃げ込んだいちごちゃんの後を追ってハウスに入り、密着していたこともありました。

肝心の捻挫のほうは、翌日にはもうだいたい普通に歩いているのを確認し、3日目には軽く走っている現場を目撃。そのため、薬は3日目で終わりにしました。神経質な様子からも少しずつ回復して、5日目には落ち着きました。その間の食欲には変化はなく、いつも通りでした。

10日経ちパラダイムシフトが起きた

そして捻挫から約10日後となる12月26日の朝、変化が現れました。回し車がめちゃくちゃ汚れているのです。そう、怪我から回復したのを機に、長らくご無沙汰だったホイール運動をするようになったのです。「おお!」と歓喜の声が出てしまいました。

もちろん、1日2日で止めてしまうこともあるので安心できません。その日から飼育員は、毎朝いちごちゃんが運動したかどうかを確認するのが楽しみになり、ホイールが汚れているたびに喜んで掃除をするというマゾ的な反応をするようになります(笑)。

あの日からこれを書いている日まで、1日を除いてかれこれ1カ月以上、毎日ホイールで遊んでいます。体重もみるみる絞れていて、12月18日から10日おきに、510g、500g、488g、475g、472gと、怪我の前から約40gも落ちています。もちろん本人は元気いっぱい、ごはんの催促も一人前です。

怪我の功名。飼育員を嬉しい気持ちにさせてくれて、いちごちゃんありがとう。

運動不足にさせたのは人間だ

今回の出来事から、「転んでもタダでは起きない」というシンプルな教訓を見せてもらったのですが、いちハリ飼いとして、それ以上の意味を考えさせられています。

それはこういうことです。
自分が傷付く経験をしたら、本能的に、より生き残れる方向に軌道修正するはず。今回、運動をするようになったということは、生き残るためには運動が必要だと本能がささやいたのではないでしょうか。では、運動不足にさせたのは誰? もちろん飼い主、人間です。

良かれと思ってつくった安全便利快適な住まいが、本当に本人のためになっていたのかどうか、考えさせられているのです。本人たちの生きる活力となる野生的環境を排除することで、心の底にある野生的本能を覆い隠し、機能不全に陥らせてしまっていたのではないか。

人間が人間の都合で飼育している以上、その居住環境のデザインを見直せというメッセージとして、今回の件を受け取りました。

運動不足の原因は何なのか

あれこれ考えてみて、一番疑わしいのは「退屈」かもしれないと思っています。

野生では歩くたびに風景が変わり、天敵に見つからないように緊張しながら昆虫類を探すのですから、飼育下のような変化のない毎日に退屈しても不思議ではありません。疑似的な餌探し、食事にありついた満足感は人間との暮らしでも体験できます。でも、新しい風景に触れたり、天敵と対峙する機会はないのですから、刺激の量と質が低下しているのは間違いないでしょう。

ただ、これを抜本的に解決するのは飼育下ではほぼ不可能でに近いので、別の角度から考えてみることにしました。

ハリんちでは広々スペースで暮らす3名だけに運動不足と体重増加という変化が出ています。天使組を含め、ほとんどの子はシャトルマルチR70(71×44cm)のケージ暮らしですが、基本的にみんな運動してくれている(いた)からです。
ケージ暮らしの子の一例(ハリネズミのちくわくん)

そのため、【A】誰かと一緒に暮らすこと、【B】居住スペースの広さ、このどちらかまたは両方が運動不足の原因になっているかも、と考えました。

【A】誰かと一緒に暮らすこと、が運動不足に結びつくかどうかについては、【A1】仲間と寄り添うことによる安心感から運動不足になる、または逆に【A2】動き回ると他の子と接触するのでそれを避けるため引きこもる、というどちらのケースも考えられます。

【B】居住スペースの広さ、が運動不足に結びつくかどうかについては、正直よくわかりません。ただ、よくよく思い返すと、シャトルマルチR70で暮らす子たちは、活動量が増える夜、ケージの縁に来て立ち上がり(若い子は登ったり)、外を覗いてスンスンする、という行動をよくします。

これはもしかしたら、狭いからこそケージの外が気になる、あるいはケージ下側のタライが不透明だから、外がどうなっているのか気になる、ということかもしれません。「外が気になるな〜…そっち行きたいな〜…せや、走ろ!」といった流れで回し車に乗っているのかも…。
運動不足の原因を考える(ハリネズミ)

ケージ暮らしに戻してみた

そこで、いちごちゃんと一緒に暮らす姫ちゃんと咲ちゃんには、広々スペースには店舗の営業時間中だけいてもらって、営業時間外にはひとりずつケージに入ってもらうことにしました。

2023年1月23日から始めたのでまだ2週間程度ですが、咲ちゃんのほうは毎日ホイールで遊ぶようになり、改善の兆しを感じます。声やごはんの匂いに対する反応性もさらに良くなった気がします。

姫ちゃんのほうは微妙です。この子はケージ暮らしのときから運動不足な日が多く、ずーっと心配してきているので、やはり、という感じです。ただ、店舗内にはへちまを3〜4個置いた広めの部屋んぽスペースを用意していて、ここに放つとへちまをかぶりながら10〜20分は遊んでくれます。
へちまを置いたハリネズミ用部屋んぽスペース

疲れたらへちまをかぶったまま寝るのですが、起きたらまた遊んでくれたりもして、合計1時間ぐらいは遊んでくれています。たまにその勢いでホイールを回すこともありますが、毎回ではないのが惜しいところ。もうちょっと運動してほしいと願っています。

これからも継続して観察していきます。

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