すごく小さく産まれた女の子「チクリン」ちゃん。8回目の通院で初めて鎮静麻酔下での検査を実施し、心臓が大きいことが発覚しました。この子と過ごした1年半について、体調と病気、治療を中心にまとめた記事です。
目次
まとめ
この記事はとても長いので、先に要点をまとめました。
経過
元々小さく産まれ、なかなか大きくならなかったチクリンちゃん。生後半年経ってやっと体重が350gまで増え、もう心配ないと胸をなで下ろしていました。
でもそれは外見だけだったようで、交配〜出産が負担になり、たびたび食欲が低下。動物病院には8カ月間で合計9回通いましたが、8回目の通院までいまひとつ原因が特定できず、食欲の低下と回復を繰り返す状況でした。
そして8回目の通院で初めて鎮静麻酔をかけて検査を行い、レントゲンから先天性の心臓病と診断されましたが、発見から6日後に虹の橋を渡りました。
この子と過ごして感じたこと
- 小さく産まれ育った子は、先天性疾患を抱えている可能性がある
- そうした子は大きくなって体力が付いたように見えても、やはり繁殖には向かない
- 鎮静麻酔にはリスクがあるが、早期にしっかり検査をしたほうが良い(と思う)
この点、事業者として恥ずかしく思っていますが、もし似た状況で繁殖を迷っているご家庭があればということで、お伝えします。
参考までに『エキゾチック診療 Vol.17 ハリネズミとフクロモモンガの診療』(学窓社、2017)を参照した結果を記しておきます。
この書籍は、ハリネズミだけでなく小動物界隈で名医が集うとの呼び声の高い、東京駒込の日本エキゾチック動物医療センター(みわエキゾチック動物病院)院長、三輪恭嗣先生が獣医師さん向けに書いた本です。
参考 日本エキゾチック動物医療センター みわエキゾチック動物病院日本エキゾチック動物医療センター みわエキゾチック動物病院
同書には、
- ハリネズミでは先天性心疾患の報告はない
- 心循環器疾患は中~高齢(3~4歳)の雄で報告が多い
- 拡張型心筋症の発生率が高い
執筆は2017年と5年前ですので、現在では先天性心疾患の例が出てきているかもしれません。もし三輪先生のところで診ていただいていたら、ハリネズミの医療向上のため、病理解剖への献体を申し出ていたと思います。
まとめは以上です。ここからは、時系列に沿ってチクリンちゃんの誕生から逝去までをお伝えします。
出産から授乳期の様子
※生後2日目の様子。左端、針が他の子に比べて生えていないのがチクリンちゃん
チクリンちゃんは2020年6月6日、姫ちゃん(当時1歳9カ月)と元気くんの間に生まれた子。母親の姫ちゃんはこのときが3度目の出産というベテランママです。
妊娠35日目とそもそも出産が少し早かった
ハリネズミの出産は妊娠36〜39日頃が多いですが、この時は35日目と少し早めの出産でした。生まれた子は4名で、1名は死産。命を繋いだのは体の大きい子(ハリンちゃん)、中くらいの子(別の家族にお迎えいただいた、みりゅーちゃん)、小さい子(チクリンちゃん)の3名です。
あれ?全然大きくならない
※生後41日目の様子。手前左がハリンちゃん、手前右がチクリンちゃん。体つきが二回りぐらい違います
生後1カ月を過ぎてから特に、体がなかなか大きくならないことに気付きました。
体重変化としては、7月31日(生後55日)の測定時、大きいハリンちゃんの219gに対してチクリンは143g。75gほどの差ができていました。
成長期の様子
フードを食べるようになってからも、食べるスピードが遅く、一気には食べられない様子でした。そのため、ごはんの時間はお姉ちゃんたちから離して別の場所で食べてもらったりしていました。
親子水入らずは3カ月半で断念
この出産は全員女子だったため、ずっと親子で暮らせたらいいなと、生後3カ月半まで親子水入らずで過ごしてもらっていました。
ところがこの頃から、体の大きいハリンちゃんが姫ちゃんママを求愛ボイスで追い回す場面が増えました。追い回された姫ちゃんは迷惑そうにハウスに避難。追い回すのは食後、ハウスの外に出ている時間が多かったのですが、これが続いてから姫ちゃんはハウスに引きこもりがちになりました。
また、残念なことに、ハリンちゃんがたまにチクリンちゃんを小突いたりしていじめる様子も目撃するように。
そのため、泣く泣くみんな別ケージに住んでもらうことにしました。
体重は平均値まで増えた
※生後約半年の様子。体重が心配ないレベルまで増え一安心していた頃
ひとり用のケージで暮らすようになってからも、ごはんは一気には食べず、ちょっと残して後で残りを食べるということが多かったです。
それでも体重は順調に増えました。8月20日(生後75日)には200gに、10月29日(生後約4カ月)には300gに、12月8日(生後約半年)にはひとまずの目標としていた350gに到達。胸をなで下ろしていました。
12月に月齢6カ月を迎え、年越しをして2021年。目標としていた体重に到達したチクリンちゃん。食欲に若干ムラはありましたが運動もしていましたし気性も穏やか。健康そうに見えました。
あんなに小さくて弱々しかったチクリンちゃんが、こんなに立派に。大器晩成タイプだったんだねと、誇らしい気持ちでした。
交配と出産
月齢7カ月を迎え、出産適齢期になったチクリン。当時、ハリンちゃんかカルビちゃんを次のママ候補として考えていて、花くんとカップリングを試していたのですが、なかなかいいタイミングに恵まれませんでした。
そこで、体も立派になったし調子もいいし、チクリンもカップリングしてみようかということになったのです。
花くんとの交配
※左側がチクリンちゃん、右側が花くん
2021年1月19日、花くんとのカップリングは思ったよりも悪くなく、10分かからずにしっかり交尾に進んで、何ごともなく終わりました。
体重は1月27日388g、2月6日379g、2月16日424g。交配後9g減ったところは、ごはんやうんち、おしっこの溜まり具合で10~15gは動いたりするので気にしませんでした。その後(交配から27日目)、45g増えていて、妊娠は確定だろうということになりました。
出産
そろそろ出産かなという妊娠38日目の2月26日は、10日に一度の体重測定日でした。結果は407gと17g減っており、ちょっと嫌な予感がしました。
その翌日、妊娠39日目に2名出産しましたが、両名とも死産。一部組織が未分化の状態でした。もしかしたら前日か前々日にも出産をしていて、食べてしまったのかもしれません。産後は床についた血も自分できれいにしますから、痕跡が残っていなくても出産した可能性は否定できません。
産後2週間ちょっとで食欲が低下
出産の翌日、2月28日は食欲がない様子で心配しましたが、次の日からだんだん食欲が戻り、運動もするようになりました。うんちの量、色も問題なく、産後の回復が順調に進んでいるものと思いホッとしていました。3月8日の体重は407gでした。
※撮影:3月8日
しかし産後18日目となる3月17日、夜ごはんを1/3食べて残しました。置いたままにしておきましたが、結局食べませんでした。
翌日3月18日。朝体重を量ると389gで、前回から18g減っています。朝ごはんは半分以下しか食べません。大好きなジクラアギトの小動物万能ゼリーをあげると、少し口をつけました。夜ごはんは一口だけでほとんど食べず、ゼリーにもミルクにもエネルギーちゅーるにも見向きもしません。また、この日は終日うんちが出ていませんでした。
子宮内膜肥厚と肺炎
3月19日。朝もケージにうんちがなく、朝ごはんにも口をつけずまったく食べません。皿を分けていろいろとフードをあげてみても、何にも興味を示しません。ミルワームにすら興味を示しません。
いつもは朝ごはんのときまでハウスにいて、食後ホイールの下でまったりして、夜はハウスと行ったり来たりしています。でもこの日は朝のぞいたときからずっとホイールの下にいました。
急ぎ動物病院で診てもらうことにしました。病院への移動中には緑色のうんちを1粒して、少しぐったりした様子でした。
検査結果と治療方針
検査の結果、子宮内膜肥厚と肺炎が見つかりました。
子宮内膜肥厚について。
獣医さん
ハリんち
獣医さん
獣医さん
検査結果を受けて、まずは抗菌薬のバイトリルと制吐・消化器機能異常治療剤のボミットバスターで様子を見ることになりました。当日は皮下点滴で栄養補給と投薬を同時にしてもらいました。このとき、
獣医さん
この日の診療明細書です。
通院した日の夜ごはんの時間。薬を確実に飲んでもらう必要があったため、シリンジを使っての給餌。はじめは「何これ?」といった表情でしたが、シリンジの先を口の横に少し入れると、口を少し開けてくれて、ゴクゴクと飲んでくれました。
ごはんは朝晩2回、それぞれ乾物3〜4gをふやかしたものを与えていますが、翌日は朝晩一口だけ、次の日は朝晩1/3ほど、その次の日は朝半分、夜完食で、完全に茶色のうんちが出始めました。さらに次の日、完全に食欲もうんちの量も戻りました。ホイールも久しぶりに少し汚れていて、運動した様子です。
食欲が低下してから中6日で元の食欲に戻ったことになります。
調子が上向いたので再び通院
3月24日、2回目の通院です。移動時には緑色のうんちが3粒ほど出ました。病院で体重測定をすると380gで、18日に量ったときとあまり変わりませんでした。
診察では、子宮と肺をエコー(超音波)で診たかったところですが、丸まってしまうため断念。今はまだ鎮静をかけてまで診るべきではないということで先送りになりました。
獣医さん
翌日以降は食べ方、うんちの量と色、運動がほぼいつも通りに戻りました。3月28日の体重は384gで、前回からほぼ変化はありません。
鎮静なしでエコー検査
3月31日、通院3回目。
診察時に丸まっていなかったため、虫かごに入れたまま、鎮静麻酔なしでエコー検査をしてもらいました。
獣医さん
その後、うんちも安定していたので、4月4日からプリンペランシロップはやめました。
また様子がおかしくなって通院
元気になって1カ月と少し経った5月14日、また急に食欲がなくなってしまったので、翌5月15日に4回目の通院をしました。鎮静なしでレントゲンを撮影し、皮下点滴で栄養補給と投薬です。
レントゲンの読影としては、
獣医さん
いずれにせよ、食べないと排泄物も少なくなって、腸の動きが鈍くなったりガスがたまったりしてしまうということで、抗菌薬のバイトリルと制吐・消化器機能異常治療剤のボミットバスターを処方されました。
2週間後に再通院
薬がなくなったタイミングの5月27日に5回目の通院をしました。その間も食欲は今ひとつ戻らず、出したお皿を空にする日はありませんでした。ちなみに体重は3月28日以降、389〜407gを小幅に推移していて、急な増減はありません。
再びレントゲン撮影を行いましたが、読影で新たな発見はありませんでした。
獣医さん
薬はこれまでのバイトリルとボミットバスターに加え、気管支拡張剤のテオスローが処方されました。
調子が良くなってきた
処方された気管支拡張剤のおかげか、食欲とうんちが改善してきました。6月4日、先生に様子を伝えたところ、
獣医さん
※撮影:10月4日
再び食欲が低下し動物病院へ
それから4カ月間、何ごともなく過ごしてくれたチクリン。少し気温変化も出てきた10月10日朝、以前にも聞いた呼吸の異音に気付きました。ごはんも少ししか食べず、夜も改善しなかったため、翌日、動物病院に連れて行きました。6度目の通院です。
鎮静なしのレントゲンでは異常が見当たらず
鎮静をかけずにレントゲンを撮影し、読影。
獣医さん
食欲が戻らないため4日後通院
処方薬で様子を見ていましたが、食欲は全然戻らないため、10月15日、7度目の通院をしました。鎮静なしのエコーで診てもらいました。
獣医さん
初めて鎮静麻酔下で検査を実施
10月18日、8度目の通院です。鎮静麻酔をかけて、血液(生化学)、エコー、レントゲンの検査を行いました。
次にエコー検査。前回よりもガスが少し減っていること以外には発見はありませんでした。
そしてレントゲン検査。鎮静による脱力状態下でのレントゲン撮影であり、以前より肺がきれいになっていることから、心臓がよく見えるようになった、と先生。
獣医さん
処方薬は慢性心不全症状改善のピモベハート、利尿降圧剤のラシックス、消化管運動亢進のプリンペランシロップです。
呼吸が苦しそうで5日後に通院
5日後、10月23日朝、呼吸のしかたがいつもと違って見え、歩き方も弱々しく心配になり、9度目の通院をしました。これまで診ていただいた先生は休診で、別の先生に診ていただきました。
診察・処置は鎮静なしのレントゲン検査、皮下点滴で栄養補給+投薬、酸素吸入です。肺炎を起こしていました。
処方薬は制吐・消化器機能異常治療剤のボミットバスター、肺炎などに伴う二次感染防止用の抗菌薬バクトラミン、気管支拡張剤のテオスロー、ステロイドのプレドニゾロン、消化管内ガス駆除剤のガスコンシロップです。
通院後、5年前にある先生に言われたことを思い出しました。「呼吸が苦しいんです。酸素室を用意してあげると少し呼吸が楽になります」。当時暮らしていた子の心臓に転移した腫瘍が見つかった際に、当時かかっていた先生に言われたことです。
すぐに調べてユニコムの「ペット用酸素3点セット(オキシビーナスミニ1000A+クイック小+酸素濃度計)」を注文しました。
参考 ペットの在宅酸素室レンタル|酸素濃縮器・酸素カプセル販売株式会社ユニコム
逝去
その日の夜はごはんを食べず、翌10月24日朝、一口だけ食べました。薬だけはシリンジで飲んでもらいました。
その日の夜、帰宅後ケージを覗くと、普段いないところで寝ています。触れてみて、亡くなっていることがわかりました。
酸素室の到着は間に合いませんでした。
これで良かったのか
このチクリンの治療では、本人への負担を減らすためということで、鎮静なしでのエコーやレントゲンを何度も実施しました。しかしそれによって得られた情報の中途半端さに、少しもやもやとしたものが残ります。
そして逝去の6日前に行った鎮静麻酔下でのレントゲンで先天性心疾患が明らかになりました。それについて先生は「すぐにどうこうということではない」と話しましたが、実際にはそれからすぐ、虹の橋を渡ってしまったのです。
チクリンの診療は堺筋本町の中央動物医療センターにお世話になりました。
もともとこの病院には、ハリネズミの診療でも定評のある松崎先生目当てで通っていました。ですが松崎先生が出産のため退職されたため、チクリンは別の先生に診ていただいておりました。
チクリンが亡くなってから、なるべくこの先生を指名することは避け、別のふたりの先生を指名していました。でもチクリンに続いてさくら、元気の2名も疑問符の付いたまま見送ることになり、それ以降は別の病院に通うことにしました。
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